電話の仕組み 1


発信音が聞こえてくるまで


「リリリリーン・・・・」

 懐かしい黒電話機のベル音ですが、今ではすっかり聞くこともなくなりました。昔の電話機の中には金属製のベルが入っていて、電話局からの電気信号でそのベルを鳴らす仕組みになっていました。

113年の歴史を持つ電話サービス


 日本に初めて電話機が輸入されたのは1877年(明治10年)11月。米国のグラハム・ベル氏が電話を発明した1年後のことです。翌年にこのベル電話機を模造して、国産の第1号電話機が完成しました。そして1889年(明治22年)12月、東京〜熱海間に1回線を敷設し日本で最初の「商用電話実験」を開始し、翌1890年(明治23年)12月16日、東京155人、横浜42人の加入者により、ようやく商用サービスとして電話交換が開始されました。今から113年も前のことです。

 NTTの加入電話(従来のアナログ電話)は、1996度末、全国6150万加入をピークに、その後ISDNや携帯電話、地域系電話会社サービスなどの普及により減少し、現在(2002年度末)ではNTT東日本NTT西日本を合わせておよそ5000万加入となっています。今後はIP電話の普及により、さらに減少していくことが想定されています。

 さて本シリーズでは、数回に分けて「電話の仕組み」について解説していきます。電話といっても加入電話ISDN、携帯電話や最近話題のIP電話、おもに企業で利用されているPBXなど、多様な形態がありますが、ここでは特に断らない限りNTT東西の加入電話サービスについて解説しています。

電話線は電話局から家までつながっている


 今回は、電話の基本的な構成と受話器を上げて発信音が出るまでを解説しましょう。

 電話線は、電話交換所のNTT網とユーザー一人ひとりの家まで、2線(1対)の銅線(メタリック・ケーブル)で接続されています。一般的にこの2本の線をL1、L2と呼び、回線空き状態においてアースされている線をL1、電池が付けられている線をL2としています。ただし、ユーザー宅のローゼット(電話機をつなぐところ)などに記されているL1、L2が必ずしも正しく配線されているとは限りません。

 電気、ガス、水道といった他のライフラインも1軒1軒のユーザー宅に引き込まれています。ただ、ユーザー宅と完全に1対1で接続されているのは電話だけであり、そこが電話サービスの特徴であるともいえます。


どこからが「端末」なの?


電話交換所からの通信ケーブルとユーザーの端末設備とは、ユーザー宅の屋外に設置された保安器が分界点になります。保安器より電話機側が端末設備(ユーザー設備)となります。


電話交換所から電話機まで。保安器からが端末設備になる。

 この保安器は雷などによる過電流を遮断してユーザーの端末設備を保護するためのものです。「6PTタイプ」という古い型番のものでは、電話の着信時にADSL(非同期ディジタル加入者線)が使用する高周波数帯に雑音が入ります。このため、ADSLの伝送速度が低下したり、接続が切れてしまったりといったことが発生することで最近は話題になっています。


停電でも使える加入電話


 前述したとおりNTTの網は、端末に対してL1、L2の2線間に通信用の直流電源を供給しています。この2線間に供給する電圧は、一方をアース、他方を−42〜53Vとしています。なぜマイナスなのかというと、マイナス電位の方が電食(電流による腐食)が起こりにくいのだと、大昔、先輩から聞いたことがあります。

 最近の電話機のほとんどは家庭用の商用電源によって動きます。万が一、停電などで商用電源が供給できない場合でも、NTT網から供給される電源で電話として最低限の機能は提供できるように設計されています。したがってNTT網からの電源供給が停止しない限り、停電になっても電話は利用できるのです。

 これに対して、IP電話では商用電源が停電すれば利用できなくなります。ADSLFTTHを使うためのネットワーク機器は商用電源で動作するからです。FTTHでは光ファイバのため、給電そのものが技術的に困難です。そのような点からもライフラインとして、加入電話は必要なのかもしれません。


発信音はラの音?


 受話器を上げるとプー(人によってはツーと聞こえるらしい・・・)という音が受話器から聞こえますが、この音を発信音(DT:Dial Tone)といいます。また、受話器を上げることをオフフック、受話器を掛ける(元に戻す)ことをオンフックといいます。

 オフフックにより端末のL1、L2の2線間の直流回路が閉成され、直流ループ状態となります(図2)。NTTの交換機はそのループ電流を検出し、ユーザーのダイヤルを受信する準備を行います。その準備が完了し、ユーザーのダイヤルを促す信号として発信音が送出されます。

 発信音は、おおむね400Hzの連続信号で2線間の直流に重畳して送出されます。400Hzというのは、ドレミ音階でソとラの中間位の音で「電話の発信音はラの音」とよく言われます。

 今回はこの辺で終わりです。次回は「ダイヤル信号の受信」についてお話します。