電話の仕組み 2

ダイヤルとダイヤルの受信

「ピ・ポ・パ!」——おなじみプッシュホンのキャッチ・フレーズです。初めて日本にプッシュホンが登場したのは1966年、今から37年も前のことです。プッシュホンは単にダイヤル操作が早く簡単にできるようになっただけではなく、プッシュホンの音による「電話を使ったチケット予約」などの新たな電話の世界を広げる大きなステップとなりました。つまり電話というものが「人〜人」のコミュニケーションから、「人〜機械」の通信も可能とするシステムとなったからです。今回は、この「ダイヤル」と「ダイヤルの受信」についてお話します。

 前回は、受話器を持ち上げてオフフックにするところまでお話ししました。オフフックにすると交換機との間でループができ、発信音が聞こえてきます。そこでいよいよ、ダイヤルします。

ダイヤルの方式は、DPとPBの2種類

 電話機には回転ダイヤル式と押しボタン・ダイヤル式(プッシュホン)があります。いずれの場合でも、電話機からダイヤルした数字を交換機に送る信号は「選択信号」と呼びます。この選択信号には、回転ダイヤル式電話機に対応したDP(Dial Pulse)信号とプッシュホンに対応したPB(Push Button)信号の2種類があります。プッシュボタンでPBとは、なんとも日本的ないいかげんな和製英語ですが、PB信号は全世界で共通となるよう標準化されており、国際的にはDTMF(Dial Tone Multi Frequency)信号と呼ばれています。


図1 DP信号の仕組み 数字に応じて直流電流は断続させる。


 DP信号は、0から9までの10種の数字を電気信号に変換します。具体的にはダイヤルを回すと、数字に応じた回数だけ直流電流を断続します(図1)。これがパルス信号です。例えばダイヤルの「1」を回すとパルスが1個送られ、「9」を回すと9個送られます。「0」の場合は、0個では分からないので10個のパルスが送られるようになっています。このパルスの数を交換機が読み取ることで番号を受信します。このパルスは回転ダイヤル式電話機のダイヤルを回したあと、ダイヤルが戻るときに作られます。このため、指でダイヤルを無理やり戻したりすると交換機がパルスを読み取れず誤接続となってしまいます。


 PB信号は、ダイヤル数字を2つの周波数を対応させた音にして送出します。例えば「0」の場合は、941Hzと1336Hzの音を組み合わせ、「9」の場合には852Hzと1477Hzの2つの音を組み合わせて番号を表します(図2)。2つの音を組み合わせるのは、音声などでの誤認識を防ぐためと思われますが、以前、テレビのどっきり人間的な番組で、肉声でPB信号をまねて電話をかける、ものすごい人を見たことがあります。


プッシュホンと電卓の数字配列はなぜ違う?


 余談ですが、普段、何気なく使っているプッシュホンと電卓。実は番号の並び方が違っていることにお気付きでしたか? プッシュホンの方の数字キーは上から1、2、3・・・と並んでいるのに対して、電卓の数字キーは下から1、2、3・・・と並んでいます。「0」だけは両方とも一番下になっています(図3)。なぜ違うのでしょうか?

 これには色々な俗説があり、私も本当のところはよく分かりません。最も一般的なの説は前述した通り、もともと回転ダイヤル式の電話のパルスは「1」は1回、「2」は2回、・・・「9」は9回、「0」は10回のパルスとし、1から順に配列したので、プッシュホンでも同じように上から順に1、2、3・・・として“0”を一番下にした。それに対して、電卓はそもそも金銭の計算が中心用途であるため、一番利用頻度の多い「0」を一番下にし、数字の小さい(0に近い)1から順に下から配列したというものです。どうも、これが本当のようです。


加入電話では数字を1つずつ交換機に送る

 加入電話では電話機からの選択信号(ダイヤル)は1ケタごとに交換機に送出します。これに対し、ISDNIP電話では、電話機からの選択信号をいったんISDN-TA(ターミナル・アダプタ)やIP電話アダプタが受信し、全数字を受信した(=次の数字が来ない)後に、一括してNTTの交換機へ送出します(図4)。


選択信号の送り方の違い
アダプタを使う場合は、いったんアダプタが数字をためて、次の数字が来なくなったら交換機に送出する。

 NTTの交換機は、1ケタずつ受信した電話番号により、ユーザーがダイヤルしても良い番号なのか、また何ケタの番号をダイヤルするのかを判断しています。したがって加入電話では、必要なケタ数の電話番号をすべてダイヤルすればすぐに接続動作の移行します。

 これに対し、ISDNIP電話ではアダプタが端末のダイヤルを受信しますので、次のダイヤルがおおむね4秒以上ダイヤルされないときに、すべての電話番号を受信したとアダプタが判断して交換機にダイヤルを一括送出します。加入電話に比べ、ISDNIP電話の接続時間(相手を呼び出すまでの時間)が長く感じるのはこのためです。

 また1ケタごとに交換機が数字を受信するので、まったく使われていない市内局番の数字(例えば東京23区内では第1数字が2、7、8、9)を受信した場合には、すぐに「現在使われていません」というガイダンスを送出し、交換機に無駄な処理をさせないようにしています。

ダイヤル中のBT(話中音)のタイミング

 みなさんも経験があると思いますが、電話のダイヤルを始めたけれど、相手の番号が途中で分からなくなり、あわててメモを探しているうちにプー、プー、プーと鳴りだしてがっかりする事があります。

 このプー、プー、プーという音は相手が話中のときに鳴るためBT(Busy Tone)と呼びます。話中以外の、例えばユーザーがなかなか次のダイヤルをしないので待ちくたびれたとき(実際は無効な交換機の装置保留を解除するため)に、接続できないことを示すときにも交換機からBTを送出します。

 交換機がダイヤル中にBTを送出するまでのタイミングには、20〜30秒(部分ダイヤル・タイミング)と4〜6秒(ケタ間タイミング)の場合があります。電話番号の最初の方(具体的にはケタ数が確定するまで)は20〜30秒、それ以降は4〜6秒と定義していましたが、最近では各交換機の設定が複雑になること、新たな電話会社の出現によりNTTで局番を把握しきれなくなったことなどから、最後の1個前の番号までは20秒間のタイミングを持たせるように設定されているようです。

 またISDNIP電話のアダプタでは、ユーザーがどのエリアで利用するか分からないので、どのような番号を受けても4秒間程ユーザーが次のダイヤルをしない場合に「ダイヤルが終了した」と判断し、受信した番号を一括して交換機に送出します。交換機はその番号を受信・分析したのち、接続やBT送出の動作に移行します。

 今回はこの辺で終わりです。次回は電話の仕組みの中でも最も重要な番号を受信した後、接続するまでの「ルーティング」についてお話します。