電話の仕組み3

番号をカギに電話の接続先を決める「ルーティング」

多くのユーザーとさまざまなサービスを識別し、接続相手を決める処理が「ルーティング」です。交換機が電話番号を手がかりに実行する機能です。IP電話や会社のPBXでも同様にルーティングの設定がされています。

 「1億6300万」

 皆さん、これは何の数だと思いますか?

 正解は、電話サービスのユーザー数です。内訳は、固定電話(加入電話ISDN)が6100万。移動電話(携帯電話、PHS、ポケベル)が9700万。そしてIP電話が500万です。

 ちなみに現在の日本の人口は1億2700万。国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の人口は2020年くらいまでにピークに到達。それ以降は減少傾向に転じるそうです。

 このように電話は、人口を大きく超えるユーザーを抱える巨大なシステムです。この巨大なシステムで、間違いなく特定の相手に電話を接続しなければなりません。この、電話の接続相手や接続方法を決める処理をルーティングと言います。

電話番号で地域やサービスが分かる

 まず、ルーティング処理をするには、電話をつなぐ相手を決めるカギが必要になります。その役割を果たすのが、電話番号です。

 電話番号が持つ意味は、それだけではありません。通話相手の地域やサービスの種類、通信事業者を識別するための体系も、電話番号で決まっているのです。

 例えば03、045、06など、市外局番を含む番号体系があります。こうした体系は「0AB〜J」番号と呼ばれます。このほか、110(警察)、119(消防)、177(天気予報)などの特殊サービスに使う「1XY」、携帯電話などに使われる「0A0」、0033、0077など通信事業者を識別する「00XY」−−などの体系があります

交換機が番号を翻訳して接続先を決める

 この電話番号をもとに、実際につなぐ相手やサービスを識別するのが交換機です。交換機は、加入電話からダイヤルされた電話番号を受信。番号を翻訳し、ほかの事業者に接続する電話なのか、どこで接続するのかなどを決定します。

 NTT東日本/NTT西日本(以下、NTT東西)の電話網で見てみましょう。電話網には、家庭からの電話線を収容する加入者線交換機、加入者線交換機を束ねる中継交換機、ほかの事業者の電話網と接続する関門交換機があります(図1)。他事業者の電話網とは、関門交換機で接続する場合と、加入者線交換機に直結する場合があります。

 このうち加入者線交換機は、電話番号と接続する回線などを対応付ける「番号翻訳テーブル」を持っています。このテーブルは、番号をインデックス値としたツリー構造になっています。受信した電話番号を1けたずつ展開して、最終的な接続先を決定していくわけです。

 例えば“0”→“0”→“3”→“3”と来れば、長距離事業者のNTTコミュニケーションズと識別して中継電話局に渡します。“1”→“7”→“7”であれば、番号を受信した交換機につながっている「天気予報の音源チャネル」に接続します。

 テーブルのデータは、交換機ごとに一つひとつ設定されています。電話局がある地域や交換機ごとに、接続方法が変わるからです。


図1 交換機が電話番号を識別して接続先を決める

シンプルな電話網ほどルーティングが簡単

 NTTの電話網は、1997年12月に交換機と中継伝送路をすべてディジタル信号で通信できるようにしました。これに伴って、県内通信の網構成はシンプルになりました(図1)。加入者線交換機と中継線交換機の2階層で実行するようにしたのです。

 結果、0AB〜J番号のNTT電話につなぐ場合のルーティングの設定は、以前よりずっと簡単になっています。同じ交換機内か、同じ電話局内か、あるいは中継交換機へ接続するかといった程度の設定で済むわけです。

 ただし、実際の網構成はもう少し複雑です。災害発生などの危険を分散するため、複数の電話局に複数の中継交換機を設置して冗長化しているからです。トラフィック負荷を分散させることもルーティングで考慮されています。

IP電話にもルーティングがある

 ここまで加入電話を題材に、交換機が電話番号によりどの事業者の網かを識別する機能として、ルーティングを説明してきました。IP電話でも同様の仕組みがあります。ここでは、フレッツ対応ISPIP電話サービス向けにNTT東西が提供しているIP電話アダプタを例に取って、IP電話のルーティングをお話しします。

 NTT東西のIP電話アダプタは、「リルート」という機能を備えています。これは、いったんIP電話網に番号を送出した後、その番号がIP電話サービスでは接続できないことが明らかになった際に、加入電話網に切り替えて接続する機能です。

 実際のリルートの順序は以下の通りです(図2)。まず、IP電話対応機器がIP電話サーバーに電話番号を送出します。サーバーはその番号がサービス対象かどうかを確認。対象外であれば、「加入電話網に切り替えて接続するように」という信号をIP電話対応機器に返します。IP電話対応機器はその信号を受信すると、加入電話に切り替えて発信するのです。


図2 IP電話で接続先を識別する仕組み
NTT東西のブロードバンド・サービス「フレッツ」に対応したIP電話サービスの場合を示した。

「ププププ」と「ププププ、プー」

 リルート機能が必要なのは、通信事業者によってサービスを提供している場合としていない場合や、ある時点からサービスに加わる可能性がある番号に対処するためです。フレッツ対応のIP電話サービスでは、携帯電話(080/090)や、着信者課金(いわゆるフリーダイヤル)で使われる0120などの番号が該当します。

 IP電話アダプタは、IP電話から発信した場合と、加入電話に切り替えて発信した場合で、別の識別音を鳴らします。通話料金が異なるからです。IP電話で発信する場合は「ププププ」、加入電話に切り替えての発信なら「ププププ、プー」という音です。意外に賢くできていると思いませんか?

 もう一つ、ほとんどのIP電話サービスは、今のところ警察(110)や消防(119)の電話につながりません。これ以外の1XY番号も、多くはIP電話からつながりません。

 このためフレッツ対応のIP電話アダプタは、IP電話に接続できないと分かっている番号を初めから加入電話網に直結する機能を備えています。これもルーティングです。

 市販の小規模企業向けIP電話アダプタなどには、ユーザーが登録した特定の電話番号を必ず加入電話から発信させる機能を備えた製品があります。IP電話は品質が不安定な場合があります。重要な相手は、品質が安定している加入電話に接続させるわけです。

PBXも番号管理テーブルを備えている

 会社のPBX(構内交換機)やビジネスホン。最初に受話器を上げると、「プッ、プッ、プッ、プッ」という内線発信音(PDT)が鳴り、“0”をダイヤルすると外線発信として発信音(DT:第1回でラの音と説明)が鳴ります。つまり、会社の電話システムも番号を識別しているわけです。

 実際、ほとんどのPBXが交換機と同様の番号管理テーブルを備え、番号ごとに接続するかしないかを設定できるようになっています。その昔、まだ長距離通話や携帯電話への通話料金が非常に高かった時代には、PBXの番号管理テーブルを駆使して高額になりやすい相手先に接続できないようにする接続規制を設定しているユーザーもいました。

 現在では、接続規制がどれだけ利用されているかは分かりません、ただ、番号管理テーブルであらかじめ接続できない番号帯が規制されている場合があります。

会社から050番号につながりますか?

 例えば、皆さんの会社からは050番号を使うIP電話にかけられますか?10月23日から、NTT東西の電話網から050番号を使うIP電話サービスの網に接続できるようになりました。ところが、PBXでは050は存在しない番号として、番号管理テーブルで接続規制がかかっていたり、何も設定されていないため接続できなかったりする場合が多くあるようです。

 ただし実際に050番号を接続できるようにするには、050番号をPBXに設定するだけでなく、電話料金を精算するための料金管理システムの変更など、さまざまなことが想定されます。ご注意ください。